2013年12月4日水曜日

スティーブン・キング『トウモロコシ畑の子供たち』についての、ま、いわば、エッセイみたいなもの



「トウモロコシ畑」と、映画とか


今回は、スティーブン・キングの『ナイトシフト』という短編集の第二巻を読みました。
「トウモロコシ畑の子供たち」(1977)という短編が気になっていたのです。以下で、この短編を指すとき、「トウモロコシ畑」と言います。
元々このタイトルは、「チルドレン・オブ・ザ・コーン」という映画経由で知っていました。知ったのは、高校のときだったかな。

例えば、このブログで言われているように、狂乱の子供たちが大人たちを虐殺する映画「ザ・チャイルド」(予告編がアップされてました)に触発されたものであるというのは明白です。
※ちなみに、「ザ・チャイルド」についてはNAVERでもまとめられていました→二度と観たくない?ハッピーエンドでもキツいトラウマ級衝撃映画! - NAVER まとめ 


「ザ・チャイルド」。「トウモロコシ畑」も脳内で大体こんなのでした

でも、どうやら、「ザ・チャイルド」は、ヒッチコックの「鳥」のオマージュで、その「ザ・チャイルド」にスティーブン・キングが触発されたようです。

ちなみに、「チルドレン・オブ・ザ・コーン」は、スプラッタとは違う「あーあー……あぁ……」みたいなグロがあるので注意してください。トウモロコシ関連の「あーあー」です。

……いっそ言ってしまうと、目からコーン的な……いや、なんでもありません。。。


少し逸れて『狼の口』のお話


この手の「あーあー」系のグロがいけるなら、興味深い歴史フィクション――いや、むしろ拷問の博覧会である『狼の口 ヴォルフスムント』(久慈光久)をおすすめします。
舞台はスイス。ヴィルヘルム・テルやハプスブルグ家などが出てきます。あらすじは↓です(wikiからコピペ)。
中世、アルプス山脈ドイツイタリアを最短距離で結ぶ交通の要衝であるザンクト・ゴットハルト峠は、アルプス山脈に住まう人々に交易による大きな利益を齎していた。
峠に権益を持つウーリシュヴァイツウンターヴァルデン二準邦の森林同盟三邦は、敵から既得権益と自由を守るため、13世紀末に盟約者同盟en、後のスイス連邦)を結成したが、峠の権益を狙うオーストリア公ハプスブルク家によって三邦は占領され、圧政が敷かれてしまう。これに対抗する盟約者同盟の闘士たちは、独立を取り戻すために地の利を活かして抵抗を続けており、三邦には叛乱の機運が大いに高まっていた。
しかし、14世紀初頭にはハプスブルク家によって峠には堅牢な砦からなる関所が設けられ、三邦の民衆は内部に閉じ込められていた。地元民は何人たりとも通行できず、密行を企てた者を一人残らず抹殺するこの非情な関所を、人々は恐れと恨みをこめて、『狼の口(ヴォルフスムント)』と呼んだ。




人が人にどれだけ残酷なことができるかということについて、たまには考えるのもいいかもしれません。四巻までは、鬱屈とした感じがやばいです。
特定の主人公はいない、民衆や大衆を描いているという点で、スタインベック『怒りの葡萄』を思い出したりはしました。(古い例だと、「出エジプト記」みたいな系列の物語です。『狼の口』の話ですよ。)


B級ホラーとクトゥルフの、にわか与太話




はっきり言って動画内容は下品なのですが、このTRPGリプレイ動画が、この「トウモロコシ畑」を元にしていて(ラストでは、映画や短編について簡単な解説もあります)、それでまた読みたくなったんです。
B級映画感満載で、映画好きの人がTRPGのセッションをしているだけあって、短編より「あー、B級映画っぽい」「B級映画感あるあるー」という感想が得られるかなと。
元はニコニコなので、一応「Children of the Corn トウモロコシ畑の子供たち」のマイリストを貼っておきます。
短編の「トウモロコシ畑」を読んだあと、内容を思い返すと、「はぁ、うまいことTRPGにしたもんだ!」と正直舌を巻きました。
語弊を恐れずに言えば、スティーブン・キングって、クトゥルフ神話の「ハイブロウで、ぞっとしない」ホラーを、「わかりやすくて、ショックのある」ホラーに、彼一流の筆致で「おろした」ところがあると思うので、この手のセッションとの相性は元々いいんでしょうね。

ほとんど詳しくないながらにわか知識で、ごにょごにょ蛇足してみます。
クトゥルフ神話がホラー的な観点から見て面白いのは、それが「神話」であることに尽きるのではないかと個人的には思います。
というのも、「ぞっとしなさ」の起源は見た目の醜悪さ・生理的な嫌悪と共に、「本当は、~」という付け足しを、私たちの世界理解に迫るものだからだと思うんです。
私たちの世界認識を笑い飛ばすように、「それ、間違いだから。本当は、こうなっていて、これが『真実』だ」と語るわけです。(逆説的に、不変・無時間的な「真実」という発想そのものの虚構臭さまで描いているように思うのですが、さてはて)

クトゥルフが単なるホラーではなく、神話、つまり説明の体系、私たちが世界を理解するときの関数であることは、その意味で必然的だったんだろうな、と。
普通のホラーって、「こんなことがあります」「私たちが目を向けない範囲でこんなひどいことが……」「ほら、あなたのすぐそばでも」みたいな諸事実の集合でしかないと思うので。
だから、神話をおろしてきたキングを、クトゥルフ神話に差し戻すのは、理に適っているというか……まぁ、にわかの与太話ですね。
ラブクラフトは結構読みましたが、覚えられないので、いつまで経ってもにわか仕込みですw


「トウモロコシ畑」と、キングについて少し


むっちゃ話がそれましたね。
各短編の紹介は、このサイトでも参考にしてください(丸投げ)

とはいえ、普通にさくさく読めるので、「トウモロコシ畑」について語ることはあんまりないんですよね。一気に小説世界に入っていけたのは、先に挙げたTRPGでB級ホラーとしての世界設定はなんとなく持てていたから、一種の「二次創作小説」として読めたという点もかなり大きいのかもしれません。時系列は逆ですが、個人の楽しみなので別にいいですよねw

加えて、以下に引く、小説冒頭の会話は、「おおっ。キング、さすが」と思うに足るものでした。

「ときどき、あたし、なんであんたなんかと結婚しちゃんたんだろう、とふしぎに思うことがあるのよ」
「短い二つの言葉を牧師に言ったからだろ」(p176)

訳もかなりリーダビリティ高かったです。娯楽小説を読む人にとって一番重要な部分と思われる、読みやすさ・流暢さ……もろもろは、読書のハードルにはなりませんでした。
とはいえ、「トウモロコシ畑」について少しだけ言えば、キリスト教もじりなのに、「予言者」じゃなくて「預言者」でしょ、普通……という文句くらいは付けたいところ。
あと、当然のことながら、ホラーにつきものの、ヒステリー起こす人もしばしばでてきます。


なお、文庫解説として、新井素子のエッセイ「スティーブン・キングについての、ま、いわば、エッセイみたいなもの」が収録されています。


蛇足ですが、スティーブン・キングの『書くことについて』(別タイトルとしては『小説作法』)で、いいフレーズがあったので引用します。
(ちなみに、自伝部分が最高に面白かった)